「ねぇ、パパ。新しいお人形さんが欲しいの」
「それじゃあ、新しいのを見付けに行こう」
1 双子
隣町で幼女が誘拐された。まだ犯人は見つからず。
そんなニュースが流れこんできたのは、約二年前。その後、進展もなく新聞からもテレビからも消えた。そして、被害者の家族以外の人々の記憶の中からも。
「ここか・・・・・・」
大学が長期休暇の間を利用して、住み込みのアルバイトをすることにした饗庭は、県と県の狭間に近い位置にある豪邸に来ていた。
ここが、饗庭の職場である。
「デカ・・・・。一日二万なだけあるわ・・・・」
住み込みだとしても、かなりの高給。よくまぁ、自分が選ばれたものだと、自分が自分で不思議で仕方ない。
「よしっ」
両手で頬をたたき、気合いを入れた。
今日から頑張るぞ!
バイト内容は、至極、簡単。いわゆる『子守』というものだ。
これが世間一般的な子守とどう違うかと言うと、その相手が小学生の双子の姉妹ということ。勉強だけじゃなく、子供の視点から、子供と本気で遊んでくれる事。それが条件だった。
そして今、饗庭の前にいるのは、どこの発表会に行くんだ? という感じに着飾った双子の姉妹、リオとイオ。リオがお姉さんで、イオが妹。
「お兄ちゃん、早く早くっ」
リオは人懐っこく、明るく活発。その反面、人形や遊びに飽きるのも早いが、妹のイオを頼もしく引っ張っていく。
「待ってくれよ、リオちゃん。そんなに早く走ったら、イオちゃんが追い付けないだろう?」
「イオも早く早く」
リオに引っ張られるままに広い廊下を走るイオ。イオは言葉が話せず、生れ付き病弱であることから、午前中は健康診断に縛られ、一緒にいられるの午後だけだった。
「お兄ちゃんがオニよ。ちゃんと10数えてね」
「よーし、行くぞー。いーち・・・・・」
「イオ、こっちっ」
妹を連れていくリオの気配。それに付いていくイオ。
仲の良い双子は、見ていて微笑ましい。双子だけあって良く似ているが、内面の性格や雰囲気次第で、あれほど似ていない双子もいないだろう。
(これで二万。かける事のふた月はっと・・・・)
かなりの収入。笑いが止まらないとは、こういう状況を指すのだろう。男の子の双子なら腕白すぎて、一日二万でも安いほうだが、女の子の双子なら、饗庭にはチョロすぎた。
(着せ替えゴッコでも、おままごとでも、俺は平気だもんね〜)
兄や姉が多い末っ子の饗庭にすれば、そんなのは男のプライドにすら引っ掛からない。
「じゅう〜、と。もういいかーい!」
「―――― もういいよー!」
遠くからリオの答える声がした。きっとあの双子は同じ場所に一緒に隠れているんだろう。今まで、ずっと二人は一緒に隠れている。別々に隠れたことは一度もなかった。
おかげで探すのは楽でいいが、土地勘は彼女たちのが上。今だに屋敷の部屋で迷う饗庭は、いつもリオに道を尋ねている。おかげで初日から威厳は消えてしまったが、リオにすればその方が親しみがあって良かったのだろう。今では饗庭の姉のように振る舞う。
「どこかなー?」
饗庭はわざと外れた場所を探す。違う部屋の扉をあけたり、ソファの裏を見たり。そうやってだんだんと双子が隠れている場所まで近付き、そして寸前でまた、違う場所を探すのだ。
子供というのは面白いもので、こっちが違う場所を探している間、ずっと笑っている。その笑い声はとても大きくて、本人たちは隠れているつもりでもバレバレだ。
「うわー、降参だよ、降参。二人とも隠れるの上手すぎるよ〜〜」
そして数度に一度は、判っていても見付けだせなかった振りをする。
子供に株を与えてやるのだ。
「やったー! お兄ちゃんの負け。約束どおり、リオとイオのお願い、きくのよ?」
舌ったらずな口調で、なのに大人っぽい言葉使いに苦笑を隠しつつ、仕方ないなぁと頭をかく。
毎日この調子で、二ヵ月間、続いていくのだった。
+まえがき+
ホラーに挑戦。頑張ります。
募集した名前を使わせて貰ってます。
05.10.22
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