はじめての日 01


 木内明・・・・メイ・・・・には、ハンデがある。
 常にそれを心に刻み、メイは宮本と会っている。
 宮本はすでに四十半ばで、結婚、出産、子育て、離婚・・・・と、人生の縮図をすでに終了させてしまっているような男である。
 反対にメイは宮本の年の半分以下で、しかも去年まで法律的にまだ結婚が認められていなかった。だから結婚も出産も子育ても離婚も未経験のまま。

 メイには、大きなハンデがあるのだ。

 相手は大人で、自分はまだ被保護者で、父と子ぐらい、年が離れている。
 自分にとっては初恋で、人生においてこれ以上にないというぐらい運命的な出会いかつ再会かつ、お付き合いをしているが、相手はそうじゃない。すでに宮本はその出会いを過去に別れた妻と果たしている。

 だからメイは考えなきゃいけない。

 どうやったら宮本が、自分だけを見てくれるのか。どうやったら本気で、メイを求めるようになるのか。
 メイの、唯一の武器といえば、この若い身体だけ。
 別れた妻に勝てるのは、若さだけ。
 宮本と共に過ごした時間も、彼が妻を愛した時間も、まだまだ適わないから。


「だから宮本さん。一緒にお風呂に入りましょう」
―――― グフッ!?」
 宮本は口に含んだ緑茶を吹き出すのを耐えたが、衝撃に喉が硬直し、さらに熱いお茶だったため咽せた。
「ゴホ、ゴホッッ、な、なにっ!?」
 宮本の前には、真剣な表情のメイがいる。心持ち、表情は硬い。
 二人は宮本の家、その居間に向かって座っている。すでにメイはこの家の合鍵を手に入れており、いつでも出入り自由になっている。
「メイちゃんっ? いま、なんて言って・・・・っ」
「今日は、何の日か知っています?」
 宮本の質問に答えず、メイは尋ね返した。律儀な宮本は動揺しつつもそれに答える。
「父の日・・・・だっけっ? 確か」
「はい。五月が母の日で、六月の今日が父の日です」
 メイは、ずっと考えていた。考えて考えて、それしか考え付かなかった。
 それはすなわち、記念日を利用すること。
「わたし、考えてみたら宮本さんの誕生日って知らないんですよね。今さらやり直したりするのも変ですし。だから、せっかくですし父の日を利用してお祝いしようと思いまして」
「あ、わざわざ、ありがとう」
 素直に頭を下げる宮本。最初の方に宣言された言葉は忘れている。
「ですから、親子みたいに、今日は宮本さんの背中を流してあげます」
「えっ! いいよ、そんなことっ」
 強く拒絶する宮本にメイの表情が曇る。
「わたしと一緒に入るの・・・・そんなに嫌・・・・・・?」
 悲しそうに見上げてくるメイに・・・・宮本は押し黙り、了承したのだった。



 外は暗いが、浴室は皓々と明るい。しかし視界は湯船の湯気で曇り、熱気に溢れている。
 宮本が先に風呂に入った。メイは後から入ってくる。裸体にバスタオルを巻いただけの姿だ。
 堂々としている彼女に、宮本のほうが恥ずかしくなる。
 すでに彼女とは経験もあるし、浴室以上に明るい空の下で繋がったこともある。しかし、やはり躊躇が生まれる。
「いやだ、宮本さん。あまりこっちを見ないでください。日焼けの跡とか、恥ずかしいんだから」
 そう言って、タイル張りの洗い場に膝立ちしながら腕を隠すメイ。その腕には、うっすらとポッキーのような日焼け跡があった。女の子らしい理由に、宮本はさらに居たたまれなくなる。彼女がまだ、十代の少女だということに。
 しかし、そんな宮本の苦悩なぞ知らぬげに、メイは楽しそうにしている。
「さ、宮本さん。お湯から上がってこっちに座ってください。今から洗いますから。今夜はわたし、宮本さん専用のスポンジ係ですから」
「あははは。スポンジ係かぁ」
 その表現に、思わず笑う宮本。まるで小学生のような感覚。忘れようにも忘れられない、娘と一緒にお風呂に入ったときの感覚。
 おかげで宮本は緊張が解れ、気楽に湯から上がると、メイが設置した風呂場用の椅子に、メイに背を向けて座った。もちろん、腰にはタオルをきっちりと巻いている。
「ちょっと待ってくださいね。用意しますから」
 背後から伝わる、ボディソープのノズルの音と、泡立てる音。反響する浴室の中で、宮本はしみじみ、家族っていいな、と感じ入っていた。メイとは家族ではないが、こういう風に一緒に入ったりするのも、父親に対してコンプレックスを持っている彼女には良いのかもしれない、そう思っていた、その時だった。

 ぷに。ぬるん。

 その暖かい感覚と、柔らかい感覚が背中を襲ったのは。
 最初、宮本は何が何だか分からなかった。スポンジではなく、泡を置いたのか、そう考えていた。しかし宮本の両肩にメイの両手が置かれて、やっと何をされているのか分かった。
「メ、メイちゃん!!」
 大声が反響し、耳に痛い。宮本は慌てて前かがみに倒れ、離れようと動いた。
「あん」
 背中から小さく、可愛い声が聞こえた。全身がカアァァと熱くなった。
「やだ、宮本さん。逃げなくてもいいのに」
「いま、きみ、なに、を・・・・っ」
「スポンジを当てました」
「スポンジじゃないだろっ!」
 あの感触はスポンジじゃない。あれはまさしく、彼女の乳房だ。タオルは開かれ、ボディソープを直接肌に塗り付け、押しつけてきた。
「そんなソープ嬢みたいなこと、しなくていい!!」
「・・・・・・ということは、行ったこと、あるんですか」
「ないけど!!」
 必死に言い募る。彼女の方を直視するわけにもいかず、小さく丸まるしかない。
「嫁入り前の娘がそんなこと、したら駄目だろうっ? 自分の身体を何だと思ってるんだ、いったい」
 いつになく憤る宮本に、顔を伺えないメイは微笑む。
「スポンジです」
 静かな声。それは浴室という密室の中、はっきりと響く。
「ちゃんと言いましたよ? スポンジ係ですって。わたし自身がスポンジになって、宮本さんを洗ってあげます。それが、父の日のプレゼント」
「そ・・・・、そんなのはいらないから、すぐに泡を落として出ていきなさいっ」
「出来ません」
 宮本のまるめた背筋を追うように、メイの指が背骨を下から上へとなぞっていく。ぞくりと震える宮本。
「・・・・・・宮本さんから誘うことって、無いですよね。だから考えたんです。こういう特別な日は、宮本さんの奴隷になろうって」
「ど・・・・・・・」
 それ以上は言葉が紡げない宮本。メイの思考の飛躍に、付いていけないのだ。
「言い方を変えるなら、尽くそうと思って。宮本さんのために何かしたい。でも自分から求めても意味はない。なら、宮本さんの自由にしてあげようって」
 再び宮本の背中を襲う柔らかい感覚。肩甲骨あたりに、二つの暖かさ。そんな様子を頭で想像して、実際の背中への感覚に、下半身に熱が溜まっていく。

 その気に、させられている。

 メイは、宮本をその気にさせるのが巧い。宮本の意志が弱いせいや流されやすい性格なのもあるが、やはり、彼女の方が一枚上手である。
「・・・・・・好きにして、いいですよ。ううん。むしろ、して下さい」
――――・・・・」
 背中から伝わる柔らかい感覚。それはゆっくりと、円を描くように移動する。その感覚に集中していると、乳房の柔らかさや、乳首の堅さも分かってくる。どのように動くのか、どのように形を変えるのか。
 ごくりと、宮本は唾を飲み込んだ。
 それを見届け、メイは赤く染めた頬に微笑を浮かべて、宮本の耳に口を近付けた。
「苛める命令、出して下さい、宮本さん」




+まえがき+

 父の日企画。宮本の性格がなーんか、弱くなってる。誘い強気受けのメイはだんだん強くなってる。というか、演技上手だな、って感じ。
 というわけで、次からイメクラっぽいもの、始まります。イメクラっていうか、擬物っていうかね。

07.06.17

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