第1章 −4−


 シオンの案内で新たな部屋に通された。その部屋は最初にいた部屋よりも奥にあった。
 たしかに、先程の部屋よりは狭いだろう。しかし、まだまだ広い。これが限度のなのだろうと、菫は大人しくこれを受け入れた。
「足りないものがあったら、何也と言ってください。姫さま」
「その姫さまっていうの、何とかならない? 名前で呼んでよ。あ、そういえば、自己紹介してなかったっけ」
 シオンの名前は聞いていたが、自分の名前は教えていなかった。
 そういえば、王たちは菫の名前を聞かなかった。どういうことだろう?
「わたし、上坂菫。菫でいいよ」
「スミレさまですか?」
「ただのスミレ。様なんていらない」
 困ったようにシオンは首を傾げた。受け入れられない、ということだろうか。
「王家の方を呼び捨てにすることは、出来ません」
 深々と頭を下げられる。
 自分よりも年上の人に、そんなことをされたのは初めてだ。慌てて止める。
「わかった、わかったよ。んーと、スミレさん、でも駄目?」
「・・・・・・努力、致します」
 無理なんだな、と判った。
 無理強いするのも可哀相なので、菫は違う話題を提供する。一番大切なことだ。
「わたしの結婚相手って、どんな人?」
「ファレル様と言います。今日、17歳を迎えました。剣術も滅法強いですが、魔術の方の知識も素晴らしい方です」
 17歳の生誕は、そのファレルのことなのか。菫は納得した。
 が、納得できないというか、聞き慣れない言葉を耳にした。
「魔術・・・・・・? それって、その、不思議なことが出来たりするんだよねっ?」
「ええ。もちろん、全員が全員できるというわけではありませんが、ここでは一般的に使われます。チキュウでは、使われないのですか?」
「一般的じゃ、ないね。TVで色々と言ってるけど、眉唾ものっぽいし。魔術となると、使える人なんていないし、使えるとも思えないな」
 菫自身、ああいうものには否定的だ。
 だって、現実に見たことがない。TVで見れても、それが本当かどうかなんて分からない。自分自身で体験してみないことには、分からない。実際、目の前でやられても、何かのトリックがあるに違いない。とりあえず、信じられないかな。
「シオンは使えるの?」
「簡単なお呪いぐらいしか・・・・・・。でも、ファレル殿下は本当にすごいんですよ。ステファン王国の五指に入るぐらい、力が強いんです」
 自分のことのように自慢するシオン。どうやら、すごく尊敬に足る人物らしい。
 これならわたしも上手くできるかも、と菫は胸を撫で下ろす。
 そこに、扉が控えめにノックされた。
 シオンが笑顔になって、扉をあける。開けた先には、二人の女の子。
「失礼します」
 女の人、というべき女性が代表に、部屋に入ってきた。その後から、菫よりも年下の女の子が付いて入ってくる。
 菫は椅子から立ち上がり、二人を迎えた。
「初めてお目にかかります、姫さま。姫さまの身の世話をさせて頂くことになりました、ターヴィスと申します」
 スカートを両手で軽く持ち上げ、綺麗に挨拶をした。
「初めてお目にかかります。同じく姫さまの身の世話をさせて頂くことになりました、ラニバと申します。よろしくお願いします」
 こちらは、可愛らしく挨拶をする。
 菫は、茫然と二人を見つめていた。
 全然世界が違う。いわゆるこの人たちは、侍女と呼ばれる人なのだ。制服みたいに同じドレスをきて、ご主人さまの、つまり菫の世話をする・・・・・・。
――――― え?」
「スミレさまに仕える人たちです。彼女たちがいれば、大丈夫ですよ。ではぼくはこれで失礼します」
 シオンは言いたいことだけ言っていくと、さっさと部屋から出ていった。
 どうしろというの、この状況。確かに誰かに手伝ってもらわなくっちゃここでの生活はとても難しいけれど、でも、侍女はないでしょ、侍女は。
 菫はちらりと、二人を見る。
 二人は、菫の命令を待っているかのように、ただじっと見つめてくる。
「ご不満があれば、違う人間を呼びますが」
 ターヴィスが唐突に言った。菫の沈黙を違う風に取ったらしい。
「あ、違うよ。二人でいいよ。その、こういう生活には慣れていなくって。えーと、スミレって言います。これから、よろしくお願いします」
 菫が頭を下げると、二人は慌てて菫よりも深く頭を下げた。
「こちらこそ、一生懸命仕えさせて頂きます」
 顔を上げて、お互い微笑み合う。
 ラニバの笑顔は可愛かった。水色のエプロンドレスが、すごく似合っている。
 ターヴィスは二十代だろう。同じエプロンドレスなのに、すごく凛凛しく見える。心なしか、顔まで恐い。否、実際にターヴィスは真剣な顔だった。
「では、これから姫さまにはこちらのお召物に着替えてもらいます。その格好では寒いでしょう。着替えおわったら、この国のしきたりや歴史、作法をマスターしてもらいます」
「はぁっ?」
「ターヴィスさんは教師の資格を持っているんです。これからはターヴィスさんが姫さまの家庭教師になり、わたしが身の回りの世話をします」
 ラニバが親切にも説明をくれた。
 勉強なんて、元の世界でだって本気でしたことないのに。
 そんなわたしの心を読んだかは解らないが、ターヴィスがいつのまにかメジャーを持って背後に立っていた。

「さあ、姫さま。サイズを測らせてください」


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H15/06/05

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