それは俺たちが中学生の時。まだ、つよしのことを誤解していた頃。
 あいつも俺と同じ子供だと、納得した事件。

0.繋がっているもの U



「すっげー埃。何年ぐらい掃除してないんだよ」
「年末年始も忙しかったし・・・・五年以上は確実にしてないな」
 鉄の扉を開けたとたんに襲ってくるカビと埃。中に入ってからも少しの動きで生じる風に埃は舞い上がる。ワンコなんてとっくの昔に外に避難してる。
 軍手じゃなくてマスクを持参すればよかったと、志紀はハンカチを口元にあてながらつよしの動かす懐中電灯を見る。白っぽい埃のせいで視界も不鮮明だ。サングラスどころか海中メガネが必要だ。あー、なんか、涙でてきた。
「なぁ、つよし。まずは空気を入れ替えようぜ。どうせ大したもん、入ってなんだろ?」
―――― 仕方ない。志紀がそう言うならそうしよう」
「素直に行動に移せよ」
 それからは扉を全開にし、何度も蔵の中で暴れて埃を外にやるという荒っぽいことを繰り返した。蔵の奥には窓(鉄格子つき!)もあったけど、荷物が重なっていてそこには辿り着くことが出来なかった。
 何とかマスクがいらなくなった頃、ワンコも蔵のなかに入ってきた。興味深そうに、辺りの品の匂いを嗅いでいる。それを見ていると、つよし以上に頼りになりそうだった。
 そして肝心のつよしは・・・・・・、
「宝探しを再開するぞ。地図によればここらへんの棚にそれらしきものが・・・・」
「地図じゃなくって回路じゃん。しかもここらへんとか、それらしきとか、勘じゃねーの? それらしきモンなんていっぱいあるし」
「突っ込みばかりやってないで、それらしいものを探せ」
「そもそもどんなのだよ。壷? 木箱? 鉄?」
 目の前に並んでいる包みを横から並べ立てる。つよしは暗い中、懐中電灯のみで必死に文字を拾っている。
 ここまでつよしが何かに必死になっているのは、初めて見るかもしれない。試験前だって余裕でワンコの散歩を誘ったり、人が勉強してる後ろで漫画読んでたりしてるくせに。それでいて志紀より成績がいい(しかも学年トップだよ!)のだから、腹も立つ。
 勉強に限らず、つよしが何かに打ち込んでいるという姿は、見たことがない。何でもそれなりにそつなく熟してしまう幼なじみは、いつだって飄々と周囲を眺めている。いつも自分と他人を分けて物を見ている。
 つよしが傍若無人に振る舞うのはいつもの事だけど、最後まで引っ掻き回して巻き込むのは志紀だけだ。つまりつよしにとっては志紀は『身内』なのかもしれないが、志紀もそう思ってくれるのは比較的嬉しいが、いかんせん、つよしは感情が表に出ない。その分、志紀一人だけが青くなったり赤くなったり騒いでるので、非常に悔しいのだ。
 何年も幼なじみやってのに、何も読ませないつよしが憎たらしく思えるが、志紀にだけ見せるこういう姿は、やっぱり嬉しかったりする。

―――――― 瓢箪だ」

 つよしが呟いた。思わずといった口調。本人は口にしてないつもりだったかもしれない。それだけ小さい呟きだったが、密封された蔵の中では大きく響いた。
 つよしの手のなかにあるのは、茶色い瓢箪。片手で持てるぐらいの大きさで、入口は粘土らしきもので栓がしてあり、その上から和紙で封印されている。
 その和紙には墨で何かが書かれている。あまりにも達筆すぎるのと、風化されているのと埃とで、絶対に読めない文字になっていた。
 それでも期待はある。つよしなら読めると。
「何て書いてあるんだっ? 探してるのって、それか?」
「さぁ・・・・」
「どっちだよ!」
 幼なじみの曖昧な態度に、志紀は怒鳴る。怒鳴った拍子に埃が口のなかに入ってセキこんだ。
「書いてある文字は・・・・祖父のものだが・・・・・・封印術なのは確かでも・・・・・・」
 人が涙流してセキこんでいるのに、つよしは何やら専門用語を呟いている。
「別にたいして大きな気は感じられない。何故わざわざ封印するんだ? それとも吸い取っているのか? いや、それにしては術式が簡略されてるし・・・・。複雑なものでもない・・・・・・。しかしこの術式、見たことがないな・・・・。」
 ぶつぶつと無表情で瓢箪を見つめる幼なじみ。
 大丈夫なんだろうかと、早々に帰りたくなった。なぜ懲りずにこの男に付き合ってしまったのだろうかと、疑問すら浮かぶ。
「ワンコー、散歩行くかー?」
 志紀はしゃがみ込むと、寄ってきた黒犬の背中を撫でる。ワンコは落ち着きなくぶるぶると震えている。

「よし、開けよう」

 今までの苦悩は何だったのか、分からないと見ると、すぐさまつよしは決断を下した。思い切りがいいというか、何事も突然な奴である。
 瓢箪の口を閉じている蓋を塞いでいる和紙・・・・呪符を躊躇いもなく破る幼なじみ。
 その瞬間、震えていたワンコがつよしに突進した。
 驚いた志紀が立ち上がったとたん、爆発音が耳を打った。分からないままに両腕を顔の前に持ってくる。

「ぶわっ!?」

 封を切った途端、固まった粘土が爆発したのだ。そして突如として小さな竜巻が蔵の中を縦横無尽に走り、積もりに積もった埃を巻き上げ、志紀たちの視界を封じた。
 何が起こったのか、志紀には分からなかった。視界は利かず、聴覚は正常であるものの激しい風の音や、それによって起きたガラクタの雪崩により、まさに周囲の情報が途切れてしまった。
 志紀に分かるのは、自分の呼吸音、早鐘のような心臓の鼓動。異様な雰囲気と大きな不安感、そして・・・・・・。


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H16/09/05

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