八月 act.01



 夏休みも八月に突入してしまった。楽しい時間は過ぎるのが早い。
 なのになぜ、あんなに課題がたくさん出るんだろう。
 こっちは受験生なんだから、免除してくれてもいいのに。
 クーラー代が勿体ないと母親に家を追い出され、未室と成瀬と一緒に図書館に向かう。思えば春休みも同じ事をしていた。なんて進歩がないんだろう。
 未室は不良を止めたのか、家でゴロゴロしていた。やっぱ中途半端な奴。
 わたしはずっと成瀬と手を繋いでいる。未室はそんなわたしたちの後ろからノロノロと付いてくる。サンダルのペタン、ペタンという音が、夏らしかった。
 成瀬は手を繋ぐのが癖になっている。
 昔、夏祭りの夜に迷子になったからだ。ちなみにわたしが。
 男として許せない過去になってしまったのか、それ以来、成瀬はわたしと手を繋ぐ。もう迷子にさせないように、習慣として身についてしまっている。わたしも子供のころからずっとなので、今でも特に変に思わない。
「今日ね、朝顔が全部咲いたよ。朝も暑くなったよね」
 小学校低学年の頃、学校から配られた朝顔を、成瀬はまだ育てている。わたしと未室は一代どころか花になる前に枯らしたというのに。
 そのせいだろうか。
 成瀬は誰よりも早く季節の到来に気付く。
 その時期の楽しみ方を知っている。
 そしてその後にくる季節にも気付く。
「もうすぐチューリップの季節だね。もうちょっと色を増やしたいなぁ。オレンジとか、黄色とか!」
 兄弟の家の庭。赤とピンクと白の、小さいチューリップ畑を思い出す。

「もうすぐ秋かー・・・・」
「いや、はえーだろ」

 即座に突っ込む未室に風情なんて単語、判らないに違いない。



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