七月 act.01


 未室が不良になった。
 成瀬にそう言われた時、わたしはどう反応したらいいのか判らなかった。だって煙草吸ってリーゼントにしてる未室って想像できない。
「それっていつの不良なの、美雪ちゃんっ!?」
「え? 違うの?」
 心底驚いていると、それを成瀬に驚かれた。そんなに驚かなくてもいいじゃん・・・・。
「夜遊びしてるんだって。変な電話とかいっぱいくるし、朝まで帰ってこない日もあるんだよ〜〜」
 成瀬は学校に通っていない。だから日中はずっと家にいる。それでも未室は家にいないらしい。
 でもわたしは毎日未室を見ている。だって未室はちゃんと学校に来ている。わたしへの態度も相変わらず冷たいのに構ってきて、何にも変化していない。つまり、家には帰らないくせに、学校には普通に通っている。
 なんて中途半端な奴。いや、器用な奴って言うべき?

 成瀬からの電話が増えた。未室が帰ってこないので、家から出られないのだ。留守にしてはいけないと義務感を感じているらしい。
 さすがのわたしも心配になってきた。でも未室が普段、どこで何をしているのか。わたしは知らない。だって成瀬に聞かされるまで気付けなかったぐらいなのだ。
「喉乾いたな・・・・」
 解らないものは考えても解らない。とりあえず、コンビニにでも行ってみよう。
 もしかしたら、なんてことも考えて。

 コンビニに入る駐車場の前の道路で、わたしは思わず立ち止まった。
 未室はコンビニにいた。コンビニの前の駐車場で、仲間らしい男子二人と一緒に何をするでもなく、黙って行き交う人や車を見ている。
 思わず息を止めて、それを見つめる。それに気付いた仲間の一人が睨んできた。
「―――― 未室」
 睨まれてるのが恐くて、思わず未室を呼んだ。未室はすぐに視点を合わせてきた。
「よしゆきっ?」
 呼ばれた未室は何でわたしがここにいるのかと、吃驚している。でもすぐに無視して俯いた。睨んでた男も知り合いと見たのか、また人通りを観察している。
 わたしは適度な距離を保ちつつ、傍まで寄ってから声をかけた。
「未室、寒くない?」
「―――― 別に」
「成瀬、心配してるよ」
「あっそ」
 ストレスを夜遊びで解消している。やり方はどうあれ、健全だと思う。陰湿なイジメに発展するよりマシ。そして、羨ましいと思う。
 未室のやり方は真似できないけど、やってみたくはある。
 思っていることを心に溜めがちなわたしは、いつも未室が羨ましかった。
「・・・・・・未室」
「うるせーよ」
 視線も合わせてくれない。それに一緒にいた友達も睨んできた。仕方なく頷いた。
「・・・・・・分かった」
 わたしはそのままコンビニに入り、暖かい缶のミルクティを買った。昼間は猛暑でも、夜はまだ涼しい。
 駐車場では未室が黙ってぼうっとしている。ぼうっとするぐらいなら家に帰ればいい。でも未室はそれをしない。わたしも何も言わない。
 幼なじみとはいえ、実弟の成瀬のように親身にはなれない。

(―――― だから、冷たいって言われちゃうのかな)

 言葉を口にできないわたしの学校での評判を、未室は否定してくれたことがない。
 幼なじみの一大事にどうでもいいと、本当に思ってるわたしは、確かにそうなのかもしれない。



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