GW前。進路カードが配られた。
第一希望から第三希望まで書き込んで、今週中に提出する。それから長い休みにはいるのだが、休みってのは名ばかりで、勉強しろってことだと思う。わたし的には最後のお休みって感じかなっていう受験生の自覚は出てきたと思う。
高校は進学することにしている。もちろん大学も。でもどこの高校がいいのかが分からない。内申とか偏差値とか、イマイチ意味も判ってない。もちろん働く気はまったくない。
近場がいいなぁと思う程度だ。
とりあえず、よく聞く名前の高校の名前を羅列した。判らない漢字は「度忘れした」と偽って前の席の女子に教えてもらった。
こんなだから、将来の夢はない。
小学生の時は何となく、教師になりたかった。別に勉強が好きなわけでも子供が好きなわけでもない。ただ、現在進行形で授業を受けている生徒として、生徒が興味を持つような、面白い勉強を教えたいと思った。
あの時のわたしは純粋に、授業も楽しかった子供だった。先生の教科書にない話を聞くのが好きだった。だから自分も将来、子供たちに教えたいと思った。だからかもしれない。
受験戦争真っ只中の今、教師になんてなりたくもないけど。
家に帰ると、成瀬がリビングのソファで寝転がっている。仰向けで本を読んでいたのだ。本もわたしの部屋から取ってきたのか、少女漫画だった。
成瀬は未室の弟で、わたしたちよりも一学年下の二年生にあたる。
と言っても一緒に学校に通っているわけじゃない。どの学校にも通っていない。
未室は登校拒否と、世間的に言うそうな。
「美雪ちゃん、おかえりー」
ソファの背もたれから顔だけを出して成瀬が出迎えてくれた。隣の家に住んでいるし、家族ぐるみの付き合いだから、彼が家にいるのは特に不思議なことじゃない。主婦業の母は日中、成瀬の世話をするのが好きなのだ。
「ただいま。おはよう。行ってきます」
「えっ、どっか行くのっ!?」
成瀬が慌てたように、ソファの上で飛び上がった。わたしはしめしめと笑って告げる。
「わたしの部屋に」
「おやつは冷蔵庫に入ってるからねー」
昔はこれで一緒に笑ってくれたのに、いまじゃ無視。
ちょっと淋しい・・・・。
部屋で制服から私服に着替え、制服はベッドに放り出す。きちんとするのは寝る前。それまでは制服もベッドに寝かせっきり。母に見つかったら怒られるけど、母が部屋にくることはない。
すぐにリビングに下りて冷蔵庫から二個のマフィンを取り出す。昨日の晩、お母さんが閉店間際に半額で買ってきたやつ。レンジで少しだけ暖め、トッピングを乗せて出来上がり。その間、成瀬は紅茶をいれていた。
「美雪ちゃん、トッピングちょーだい」
「ん」
一緒に台所のテーブルに着いてマフィンを食べてたら、返事をする前に取られた。
トッピング好きの成瀬のいつもの行為。
取られるのが分かってて盛っているから、別にいいんだけど、ときどき、意地悪もしたくなるんです。
「太っても知らないよ」
「大丈夫。食べても太らないから」
それって、わたしに対する挑戦ですか?
やっぱり慣れないことはするもんじゃないって思った。
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