四月 act.02



 一年生が入学し、わたしは繰りあがって三年生になった。
 新しい年の節目。四月に入って新学期になって学年が上がった。教室の棟も変わった。校門からいちばん遠い棟だ。しかも下の階は職員室がある。
 最終学年である三年生。否がおうでも受験生なのだと、担任の先生はわたしを思い知らせるようなHRを開いていた。
「一分一秒を無駄にするな!」
 ならその長説教を止めて欲しいと思います。


 一年の時に同じクラスだった者が一割。二年の時が一割。三年間同じクラスの者が二人(男子のみ)。
 それ以外はまったくの新顔だった。それでもだいたい、何となく見覚えがある。合同体育で知り合ったり、委員会で顔を合わせたり、朝礼で隣になったり・・・・色々だ。
 三年も同じ学校に通っているだけに、全く知らない顔は一人もいなかった。どの人もどこかしら、見覚えがある。
 それでもクラスメイトとして初めて会話をする面々ばかり。一年間、仲良くできたらいいな、と願う。

「おーい、美雪」

 ヘラヘラと笑いながら未室がけっこう大きな声で教室に入ってきた。おかげで注目の的になっていまった。でも未室は見目は良いから人気あるし、その幼なじみというだけでわたしも知られているから、みんなの注目もすぐに違う興味に逸れていく。
 未室は隣のクラスだ。中学三年間、これで一度も同じクラスにならなかったことになる。
 そんな幼なじみの次の台詞は、
「金、貸してくれ」
 だった。
 新学期早々、部活があり。昼食代にするとの事。ちなみに部活はテニス部。テニス部自体は別に強くはない。うちの学校はサッカーと陸上が強いので、それ以外の運動部はアットホームなのだ。
「ホント、嫌になるぜ。サボれると思ったからテニス部入ったのに・・・・」
 さっきも説明したけど、一般的に見れば美形らしい彼は、やっぱり女子に人気があった。背も高いし、運動も出来る。一年生の時からレギュラーを名乗っているから、そこそこ校内でも有名。個人的には、涼やかな目元という、鋭い目付きが人気ならいいなと思ってる。つまり、わたしは目付きの悪さがけっこう気に入っているってこと。誰にも言わないで欲しいけど。
「去年、結構いい成績なんて残さなきゃ良かったぜ」
「シングル優勝は『結構』なことだと思うけど」
「シングルス。県内じゃ意味ねー」
 言いなおされた。そもそもシングルなのに何で複数形を使うんだろう。
 わたしは机のフックからリュックを持ち上げ、小学校の頃から使っている年代物の財布を取り出した。
 財布の中身は一万円と小銭が少々。
「ごっさんです」
 相撲取りみたいに縦にした片手を上下に振って、未室は諭吉さんと一緒に教室から消えた。止める隙もない。
 なんで一万円なんか入れてしまったんだろうか、今朝のわたしは。



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