四月 act.01



「よしゆきっ!」
 いきなりわたしの部屋に飛び込んできたのは、隣の幼なじみ、未室だった。
 切羽詰まった様子が、呼吸の荒い部分に出ている。
「ど、どしたの?」
 すでに夜。明日から新学期が始まるので、嫌々ながら荷物をまとめていた時だった。驚いたので、リュックを持ったままわたしは固まっていた。
「おい、おま、春休みの宿題、やったかっ!?」
「やった」
 告げた途端、信じらんねー! と未室が叫んだ。
「何で春に宿題があるんだよっ!?」
「え・・・・、さあ? 受験生だからじゃない?」
 そこまで言って気付いた。普通、この手の会話は終業式あたりでするものだ。決して始業式の前日にするものじゃない。
「―――― 未室?」
 不審に思って名前を呼べば、視線を彼方に飛ばしながら呟くように話しだす。
「・・・・・・上靴を、リュックに入れようとしたら・・・・中からプリントの束が・・・・・・」
「春休み中、一回も確かめなかったのっ?」
「あるって思わねぇよ! 助けてくれ! 見せろ!!」
 懇願が命令になり、持っていたリュックを奪われた。同時に白紙のプリントを押しつけられた。
「半分書いてくれ、頼む! なっ?」
「字が違うって・・・・」
「似せろ!」
 鬼気迫る、とはこういう事を指すのか。という表情で人の机を占領して、シャーペンも無断借用し、写し始める未室。
 仕方なくわたしも部屋の端に片付けてあった収納テーブルを広げて、床に座ってプリントに文字を埋めていった。未室の字は知っている。筆圧を強くして、角張るように書けばいいだけだ。
「今度、なんか奢って」
「喋るな、手を動かせ」
 手伝っている人間に対して、なんて言いようだろうか。メチャクチャな答えにしてやろうかと悪魔が囁いたが、良心が疼いて、結局そのまま書き写していった。
 本当にわたしは『いい人』だと自画自賛する。夜に押し入ってきた迷惑な人間のために頑張っているのだ。本当にわたしは、なんて良い人なんだろう。
「おい、三枚目の五問目、漢字間違ってるぞ」
「黙れ」
「じゃ、奢らねぇ」
「じゃ、手伝わない」
「手伝わなきゃ絶対に奢らねぇ」
 どういう脅迫?
 思わずつっこんだけど、わたしがすべき事は一つだけ。
「次のプリントちょーだい」
「花より団子」
 含み笑いと同時に降ってきたプリントを受け取り、わたしは未室の背中を睨む。

 ほんっとうに、一言多い男なんだからっ!!



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 表紙にUPしてない書き下ろしです。新学期の前日談でした。


07.10.27

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