春休みも残すところ、あと数日。
やることもないので暇つぶしに、幼なじみの一人と連れ立って、図書館に行ってきた。めぼしい新刊は入っておらず、本当に時間を潰しただけで図書館から出た。
二人は並んで歩くでもなく、男子の後に二歩下がる感じで女子が付いていっている。周囲から見れば恋人同士と見えなくもないが、二人の間は恋人にしては離れすぎている。
「春だなあ」
後ろを歩くわたしに合わせてるわけでなく、本当にのんびりと歩いている幼なじみの未室がぽつん、と呟いた。わたしは誰も見ていないのに、小さく首肯く。
ニュースでも春のお告げがあっても、それは本当の 『お告げ 』じゃない。
春の訪れを知るには、きっかけが必要だったりする。それも些細なきっかけが。
俯いて歩くクセのあるわたしの春の訪れは、地面だ。コンクリートの上、足元のそれで気付かされる。
(―――― 春だなぁ・・・・)
足元には無数の桜の花びら。中には房ごと落ちているものも。
踏み付けられ、茶色に変色した桜の残骸。散らばった赤い芯。
無残に散らされてしまった残骸にしか、春を感じられない。
見上げれば満開の花。花。花の一色。空の水色と雲と白色と桜の桃色。
風に吹かれては花びらを巻き上げ、限界を知らないように散ってしまう。
この道は一昨日も通った。なのにその時は気付かなかった。
「―――― 美雪、なに突っ立ってんだ」
歩みが止まっていたわたしを急かすように未室がわたしの名前を呼んだ。
待つのももどかしいらしく、近付いて尋ねてくる。
「どうしたんだよ。金でも落ちてたか」
地面を見ている未室の最後の一文は無視する。
「未室、春だよ」
「世間的にどこでも春だ」
何をいまさら、と未室はわたしをバカにした。たいてい彼はこうだ。
呑気な性格のわたしを馬鹿にするのが好きなのだ。もちろん昔からの延長戦で、本気じゃないからわたしも気にしないし、未室もそれが解るから癖のように嫌味は一つぐらいしか出ない。
ある日突然、曖昧に、唐突に思い知らされる。
幼なじみと図書館からの帰り道、ふと気付いた。
行きには気付けなかった、その残骸。
―――― 春が来た。
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