真っ白な切符
行き先が印刷されてない片道切符を持って、列車に乗り込んだ。乗客は僕一人だけ。
窓から見える景色は騒々しい街並から静かな深緑へと変化し、そしていつのまにやら青空が広がっていた。上下左右、空のなか。
「切符を拝見します」
車掌さんの白い手袋が眩しい。まるで新品のようだった。
僕はいつものように財布に入れた切符を差し出した。
「おや。この切符は天国切符ですよ。良かったですね」
「どういうこと?」
「白いですから。地獄は黒いですから」
だから現世の切符の裏は黒いんですよ。なんて教えてくれる。
天国と地獄の間だから。
僕にはもう必要のない知識だ。
「天国って、やっぱり綺麗ですか?」
「さて。何せこの列車から離れたことありませんから」
「ずっと、ですか?」
「ずっと、です」
そこで会話が途切れてしまった。
この列車は最終目的地までノンストップの一方通行で、途中下車はなし。運転も自動らしく、空の景色は見飽きない。
「―――――― そっか・・・・・・」
やっと分かった。
やっと理解が追い付いた。
「僕は死んだんだ」
車掌さんが帽子の下で微笑んだ。
「列車の衝突事故でした。・・・・・・これから忙しくなります」
通勤通学のラッシュ時の事故だった。
なんて皮肉が利いたお迎えだろうか。よりによって列車なんて!
「ずっと、こんなことを続けているんですか?」
「ええ。ずっとです」
この列車は最終目的地まで一方通行。途中下車なし。
空の旅は気持ち良かったが、列車の速度が緩くなったような気がする。
「もう、着きますよ」
「・・・・お元気で、車掌さん」
「私はずっと元気ですよ」
「ずっと、ですか」
「ずっと、です」
また、帽子の下で微笑む車掌さん。柔和な笑顔は急く心を落ち着かせた。
最期にこんな旅が出来たのなら。
この人に出会えたならば、死んだのも悪くなかったかもしれない。
「ご利用、ありがとうございました」
そして、さようなら。お元気で。
終
+あとがき+
死ぬのって、怖いよね。自分が今、考えている意識が消える。ということが、いちばん恐ろしいです。
死後がこんなだったら、安心できるんだけどな。
07.04.15
|