高いところ



 高いところから覗き込む。
 少年がいる場所は底で、辺りよりも一段と低い場所になのに、それでも少年は高い位置から覗き込むのだ。
「ねぇ、返事してよ。いじわるしないで何か言ってよ」
 少年は足元にある黒い穴に向かって叫ぶ。
 それはマンホールだった。蓋は穴の近くにある。日が射さないせいか、それとも余りに深いのか、穴の底は見えない。
「ねぇ、そこ、何があるのーっ? おもしろいー? だから全然、こっちに来ないのっ?」
 少年の目には、マンホールの下からキラめきが微かに見えているし、話し声らしきものも耳に届いていた。
 少年は焦れてしまい、穴に向かって叫んだ。
「ねーっ! そっちに行ってもいいーっ?」

「いいよ」

 そして少年は飛んだ。黒い穴へと。底知れぬ底へと。
 少年は知らない。穴から見えたキラめきが、水面で反射された陽の光だということに。
 少年は知らない。穴から聞こえた話し声が、自分の発した声のエコーだったことに。
 少年は知らない。穴の中には、自分と同じ末路を辿った子供が、たくさん居ることに。



+あとがき+

 ちょこっとホラー。返事を返したのは、穴の中の主でしょう。
 マンホールに落ちた子供の事件は痛々しかった。子供にとったら、興味深く面白そうなことだったんだろうな。

06.08.27

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