○○さま



拝啓 ――――

 父上、母上、お元気でしょうか。
 私が第二王子に仕えるようになって四日。
 もう、辞めてしまいたいです・・・・・・。


「ウィディン!」
「ただいま!!」

 御年7歳になられる第二王子様は、活発という単語で納まらないほどのやんちゃ坊主っぷりです。やんちゃ坊主でも言葉を飾りすぎているでしょう。はっきりと申せば鬼でしょうか。

「どうされましたか、王子っ!」
「お腹がすいた。厨房から何か取ってこい」
「おやつまでもう少しですから・・・・」
「ならお前を食うっ!」

 ええ? と思う前に、自分の顔の横に、銀色の何かが走った。同時にカツンっ! という音が背後から聞こえる。
 恐る恐る振り向けば、壁に銀のナイフが刺さっている。ビィィンと震えているナイフから視線を逸らして王子を見れば、王子の周りに浮いているナイフやらフォークやら。
 昨日、私がお教えした初級魔法の応用です。王子はたいへん物覚えのいい、利発な、優秀な生徒です。しかし本音を言うなら、やはり、悪知恵ばかり働くクソガ・・・・いえ、言葉が過ぎました。お子さまです。

「わ、私は食べても美味しくありません!!」
「食べられる奴はみんなそう言うんだ! いけ!」

 言霊が発生しました! 私の目にはしっかりと魔法力の流れが渦を巻いてこちらに襲っているのが分かります!!
 反発魔法を使うべきでしょうか。それとも防御魔法を使うべきでしょうか!!

「ひぃぃぃぃっ!!」

 考えている間にビュビュビュン! とナイフとフォークが物凄い速さで通り過ぎ、背後の壁からカカカカッ! と刺さる音が。
 私は一歩も動けませんした。恐ろしくて、あまりの恐怖に立ちすくんだのです。

「ウィディンのノロマ!」

 王子は魔王のように笑うと、さっさと私を擦り抜けて部屋から飛び出していきました。
 そして私が正気に戻った頃には、もう王子は城から姿を消していました。

「お、王子・・・・っ」

 ナイフの一本が、私の最高位である魔術師に贈られる特別な白のローブに刺さり、壁と縫い合わせています。
 王子の技術の賜でしょうか。それとも偶然でしょうか。それとも・・・・寸前で命が助かったのでしょうか。


 父上、母上。
 第二王子を更正させるのが私に与えられた仕事のようにも思えます。
 しかし、これでは命が保ちません。
 父上、母上。
 私が家に帰るとき、骨じゃないことだけを祈っていてください。



かしこ


+あとがき+

 言波のサイトでいちばん不幸な人だと思う。いちばんの美形なのにね。


06.07.02

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