生まれる前
私が生まれる前、父は天使だったらしい。
父が家にいない理由を母に尋ねると、いつもそのような答えが返ってきた。
何も知らない純粋な子供時代はそれを信じて、得意顔で友に話したものである。
けれど中にはそれが原因でイジメてくる子供もいて、よく泣いては母を困らせていた。
生まれてこのかた16年。
明日が誕生日だから17年かもしれないが。
よもや今になって、昔を思い出すことになるなんて。
「お母さん・・・・、あなたって人は・・・・・・っ」
母は嘘を吐いていなかった。子供の質問に、ごまかしを入れなかった。
確かに父は天使だったのだ。
「私の部屋が・・・・・」
床一面に純白の羽。白鳥のような羽ではなく、それよりも大きく、柔らかく、そして朝日を浴びて銀色に輝くそれら。
朝、異様な感覚を背中に覚え、珍しく早起きしてみれば、背中にそれがあった。背中の上の方。肩甲骨のあたり。そこに一対の翼が生えている。見事に生えている。
呼吸するのと同じ感覚で翼が動く。最初はそれが現実とは思えず、何度も羽撃かせていたら、生えたばかりだったせいか、羽がいくつも抜け落ち、床に広がったのだ。
そしてなかなか起きてこない娘を起こしにきた母が、私の背中にある翼を見て、「お父さんだわーっ!!」と泣きながら抱きついてきた。
ちなみに今は翼に頬摺りして思い出に浸り、泣いている。
父は、確かに天使だったのだ。
でも・・・・、学校、どうしよう。
終
+あとがき+
自分でも気に入ってる内容です。
しかし朝起きて羽が生えてたら、こんなんじゃ済まないよな・・・・。
05.10.29
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