告白の意味



「わたし、真琴のこと、好きだよ」
そんなことを言ったのは誰だったか・・・・・・。
僕は思い出せなかった。
女の子だということはわかっている。
もし男だったら、忘れはしないだろう。男に告白されたという衝撃で。 彼女(?)は何故、僕にそんなことを言ったのか・・・・未だにわからない。
そして、僕が彼女になんて応えたのかも・・・・・・。


「真琴? どうしたん? ボーとしてさ。悩み事かなんか?」

 何かの資料を、コーンポタージュを飲みながら見ていた唯香は、僕に質問してきた。
 普段彼女はなんでもかんでも相手に何かあったのかと聞きまくるが、本当に相手が困っている時、何か在りそうなときは、黙って相手から言ってくるのを待っている。
 そして何かを躊躇っているような人には、ちゃんと聞いてあげている。
 今がそうだ。
「実験中に考え事は御法度だよ」
「ああ・・・・」
 唯香ならわかるだろうか。
 決まった恋人はいないものの、彼女は随分ともてるらしいから。
―――― 唯香」
「うん?」
「聞きたいことがあるんだが・・・・・・」
「言ってみ?」
 手元からの資料から顔を上げ、唯香は僕を眺める。
 その瞳は好奇心にまみれているわけでもなく、ただ、淡々としている。おかげでこちらも話しやすかった。

「唯香は、告白されたこと、あるか?」

 途端に固まる唯香。
―――― ごめん、ちょっと聞きなれないことを聞いたような気がしたんだけど、コクハクって、酷薄・・・・のこと? それとも刻薄? ・・・・じゃないよね。告白のほうだね」
「そう。唯香なら相手にどう応える」
「そうだね、相手が本気なら断るし、冗談なら受けるよ」
 彼女にとっては相手の本気を図るぐらい、朝飯前なのだろう。
 彼女の能力をもってすれば、それも不可能ではない。何せ人間が常時発している『気』で相手の嘘を見破ってしまうから。
「もし本気なら、あたしが断っても諦めないだろうし。反対に、すぐ諦めたとしたら本気じゃないってことだよね。まあ、最初は断って反応みてみるのも手だね」
「もし、唯香が惚れた相手なら?」
「そうだね。どうしようか。あの人は、いつも『いいよ』って、言う人だから・・・・」
 珍しく、感情を吐露する唯香。
 唯香は僕にいつも相談をもちかけてくるし、なんでも話してくる。でも、今日みたいな本音は、初めてだったりする。
 だからいつも通り、僕は黙っていた。そもそも、そういうことは理解できないから。
「・・・・ねぇ、真琴? どうしていきなり告白がどうとか言い出したの?」
 沈黙を恐れたのか、それとも気まずかったのか、唯香のほうから先に言ってくる。
「・・・・誰だったかはわからない。でも、告白された、らしい」
「らしいィ〜? 何それっ? ちょっと真琴ちゃん、それって何よ」
「良くわからない。覚えていないんだ」
「お、覚えてないって、それって、最低のことだよ? 相手の名前とか、顔も覚えてないっ!?」
「・・・・・・らしい」
 唯香の追及がどんどん厳しくなっていくため、つい、顔をそらしてしまった。
―――― わかった。真琴ちゃんの責任じゃない。真琴ちゃんは顔と名前が一致することないもんね。覚えてなくて正解だね、君の場合は。でも、あたしの質問には答えなさい」
 返事をする変わりに小さく肯く。
「とりあえず、性別は?」
「髪が肩まであったし、スカートだったから、女の子だと思う・・・・」
「上出来。それじゃ、告白内容」
「それは完璧に覚えている。『わたし、真琴のこと、好きだよ』と言っていた」
「それに対する君の応え」
「わからん」
「・・・・・・場所は?」 「どういう風に?」
「わからん」
「・・・・・・時期は?」
「確か・・・・・・、半年前だ」
 そこで唯香の追求が止まり・・・・・・、

「半年前だと ――― っ! お前、その間その女の子のことずっと放っていたのか ―――― っ!!」

「それさえもわからん」
 唯香の怒鳴り声などそよ風にしか感じてない真琴に、唯香は頬を引きつらせる。
「・・・・・・いや、ちょっと待て。まだチャンスはある。その女の子、自己紹介、したか?」
「してなかったと思うが・・・・・・」
「ここは苗字が無用の場所だ。『真琴』といっているし、君が今まで会ったことのある女の子に違いない。君が人の名前を覚えるのが苦手なのは全員が知っている。さあ、思い出せっ」
「・・・・・・・・・・・・」
 思い出せと言われて思い出せるものではない。
 少々範囲が狭まったとはいえ、本人を覚えていないのにどうやって・・・・。
「半年前といえば5月だな。それから会ってない女の子だからな。きっと顔合わせるの苦痛だと思うから。しかも年下はありえない。1つならともかく、その下になるとみんな『〜〜さん』になるから。しかも君が覚えてないんだから、このラボには来たことがない子だ」
「だいぶ、可能性が出てきた。でも・・・・」
「ああ、半年前だから記憶はもう薄れているし、声ももう駄目だろ? そもそもラボに来ないような子をお前が知ってるとは思えないし、ちょっとなあ・・・・・・」
 二人して頭を抱える。
 と、そこへ、ノックと同時に扉を開けた人がいた。
「あれー、砂原先輩、こんなところにいたんですか?」
「んー、篤かぁ。あたしに用?」
「あ、いえいえ。今回は真琴に用があって・・・・。半年前に頼んでいたものを取りに来たんです」
 半年前?
 なんと奇遇な。
 しかし・・・・、
「なんかあったか?」
 頼まれごとをされた覚えがない。
「何言ってんだよっ。ちゃんとここで言ったろう? 唯香さんも聞いていたはずだ」
「あ、あたし〜!?」
「そうですよ・・・・、まさか・・・・・・? おい、真琴、出来てないってことは、ないよな?」
「頼まれた覚えのないものはできん」
 篤には悪いが、事実だから仕方ない。
「ちゃんと言ったじゃんかよ〜っ!唯香さんもちゃんと聞いてたはずですっ。ここで実験してたじゃないですかっ!!」
 その科白で、僕たちは顔を見合わせる。
 唯香の顔は白くなっていた。唇は少々青くなっている。
「まさか・・・・実験って、液体状の・・・・・・?」
「そうですよ。変な緑色と青色のマーブルで・・・・・・」
―――― 爆発したな」
 確信を持って応える。
「当たり前だろ? お前の実験で爆発しなかったことなんてあったか? あの時も変な硫黄に似た匂いと青い煙が巻き上がってさー。それなのに二人とも気にせず続けてるんだもんなぁ」
「うわぁぁぁ ――― っ。あたしだけはまともだと思ってたのにィ!!」
「その煙が原因か・・・・」


報告

  砂原唯香、三木乃真琴両名、
  5月3日前後一週間の記憶を実験でなくす。
  何か知っていることを両名か、仲田 篤に報告せよ。         以上

「これで何も出なかったらどうしよう・・・・」
  ああ、迷える子羊に合の手をっ。
「そう言う場合は合の手じゃなくて、愛の手」
「まったく・・・・(それじゃ漫才だよ)」



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06.01.29


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