目覚ましが自己主張しだす、数分前。いつものように佐々は目を覚ます。しかし動かない。目覚ましが行動を起こしてから、やっと起きだす。
 それが佐々の一日の始まりだ。
 ときどき目覚ましに起こされることはあっても、ほとんど変わることのない日常。


永遠の片思い  11.ある朝目覚めると


 座席で目を瞑り、電車内に流れるアナウンスで目蓋を持ち上げ、そして人波に流されるように降り、階段を上って改札の外に出る。
 佐々の通う中学校の制服と、近くの私立高校の制服と、サラリーマンの背広が交じり合った中、佐々は歩く。
 色々な店を通り過ぎ、コンクリートの地面と一体化した地蔵を通り過ぎ、横断歩道を集団で渡る。
 変わらない日常。昨日と繋がった今日。
「だから・・・・関わるのは嫌だったんだ・・・・・・っ」
 幽霊に関わったのはこれで数度目。
 こうなるのは分かっていたから、知らない振りを続けていたのに。
 マフラーで隠した口元を歪ませ、待っている自分に気付く。視線が絶えず、四方に伸びる。
 昨日までなら、ここで姿を現わす。佐々の名前を呼んで、朝の挨拶を交わす。

―――― 佐々、おはよう」

―――――― っ!!」
 バッと勢いをつけて振り向く。そこにいたのは、急に振り向いた佐々に驚いた、・・・・・・一堂 律 の姿。
「・・・・・・何の用だい、朝から珍しい」
 落胆の色を隠すように、わざとつっけんどんに返す。
「昨日、さぼっただろう。何があったんだ?」
「そのために出待ちしてたのか。君のファンが見たら泣くね」
 それより、僕がファンに恨まれるかも。
 そんな軽口に一堂は動じない。そもそもそういう神経は持ち合わせてないってぐらいに物事を冷静に見る。
「朝から不景気だな」
「朝から男に声をかけられたら、誰だってね」
 佐々の不機嫌を感じたのだろう、それ以降、一堂は声をかけてこない。そしてそのまま会話もしないのに、なぜか並んで歩く。

 はぁ・・・・・。

 ため息が、白く濁る。それは空気に消え、無くなった。

 変わらない日常。昨日と繋がった今日。
 世界は異質を排除し、正常を保ち、自分たちを護る。
 今日もまた、一日が始まる。
 挨拶しにくる、ちょっと変な幽霊はもういない。



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+あとがき+

 完結です。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
 最初に思い浮かんだ情景が、8話の雨の中での風景でした。そこから一気に最終話まで出来上がり、前半部分もすんなりと繋がって行きました。本当はシリーズ物の一部だったのですが、これはこれで、納得できる終り方です。

 それじゃあ「律」と「和哉」のお名前を考えてくれた方。本当にありがとうございました。


05.12.28 23:35 言波より。


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